3.トランス・パーソナル心理学の成立過程2
山口雅彦
第二の勢力は、スキナー等の行動主義心理学です。
物理学が科学として成立してきたことで、心理学も「科学」として成立させようという人たちがいました。
しかしそのためには、「心」という目に見えないものを対象にしても客観的科学として成り立ちにくいので、目に見える「行動」(人間の生物機械的側面)を研究対象にしました。
つまり、科学としての心理学は対象を客観的な行動に限定すべきだとし、人間を生物機械的にとらえ、おもに「刺激-反応」のパターンで理解しようとするものです。
この考え方によれば、人間の行動は基本的に、すべて無意識の行動となります。
フロイトが意識と無意識を分けたのに対して、行動主義では意識の存在すら認めないことになります。
ですから、心に悩みをかかえている人が解決の参考になるのではと考えて、心理学の本でも読んでみようと、
行動主義の心理学の本を読んでもあまり役に立ちません。
そして、「何だ心理学なんて役に立たないや」とい
うことになります。(ただ、行動主義の中から出てきた認知療法はうつや不安神経症の人たちに対する療法と
してかなり一般的になり効果が出ています)
通常、大学の教養で学ぶ心理学はこの行動主義心理学です。
第三の勢力は、アブラハム・マズローの人間性心理学です。
マズローは、はじめ行動主義心理学の研究者として出発しました。
しかし、自分の子供が産まれ、子供を観
察していくうちに行動主義の人間を機械として見る見方に疑問を感じだしました。
また、第一の勢力である精神分析は、病んでいる人の心の研究で、その点にもマズローは疑問をもち、より
健康な人たちを研究対象とした積極的な心理学を打ちたてました。
それが、人間性心理学です。
マズローは人間の欲求を階層的にとらえました。 最下層にあるのが、「生理的欲求」であり、その欲求が
満たされれば、次の欲求が起こってくるというものです。そして、その基本的な諸欲求を適度に満たすことが
出来れば、人間はますます成長し、心理的に健康になっていくと考えました。
以下が6つの基本的欲求です。
「生理的欲求」・・・・・空気・水・食物・庇護・睡眠・性への欲求
「安全への欲求」・・・・安全・安定・依存・保護・秩序への欲求
「所属と愛の欲求」・・・愛されること、家族の中に居場所があり自分が愛されることへの欲求
「承認欲求」・・・・・・自尊心・尊敬されることへの欲求
「自己実現欲求」・・・・・・自分がなりたいのもへの欲求
また、マズローは「至高体験」というものに着目しました。「至高体験」というのは、大きな感動や喜びで
我を忘れるほど素晴らしい体験のことです。
雄大な自然の美しさに時
を忘れ、我を忘れて感動する。そして大きな喜び、幸せを感じる。
一般的に「ハイ」 と言われるものです。ランナーズ・ハイとか、宇宙と一体化するとか、宗教的体験なども含みます。
「至高体験」のときの意識は、日常の意識状態とは違う意識状態で、変性意識状態と呼ばれるものです。
そし
て、彼はその意味を考察しました。
彼は、今までの精神分析や行動主義が病理的な面ばかり注目することに疑問を持ち、人間のこの「至高体験」
を起こした時の心の様子を探求することにも意義があるのではないかと考え、もっと人間の可能性、創造性、成
長、価値、自己実現など、人間の全体性、好ましく、高次な側面に焦点を当てた明るい心理学をめざしたのです。
この明るい考え方は、「人間性心理学」として、60~70年代のアメリカの若者を捉えました。
そして、「至高体験」は、「自己実現」している人たちの方がそうでない人たちより多いとマズローは言ってい
ます。
この「至高体験」の研究からマズローは晩年「自己超越欲求」というものが「自己実現欲求」の上にあるんだ
と言うようになりました。
先ほど紹介した欲求の階層説の最後に「自己超越欲求」というものを加えたのです。
マズロー自身アメリカ心理学会の会長まで務めた方でしたから「自己実現」していたといえるわけです。
そう
いう人が「自己実現欲求」のさらに上に「自己超越欲求」があると唱えたということは、彼自身、「自己超越欲
求」というものを感じていたのではないかと推測できます。
そして、この「自己超越」ということがトランス・パーソナル心理学の成立に結びついていきます。
続く







